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第1章 スワヒリ語の発音

1.1.文字と音

スワヒリ語では,アルファベットを使ってことばを書きあらわす.スワヒリ語で使われるアルファベットは,次の表のように30の種類(組み合せ)がある.だいたい1つの音が1つの文字に対応し,単語は文字どおりに読めばよい.ただし,ch, dh, gh などではこの2つの文字が組みあわされて1つの音をあらわす.アルファベットには,母音(発声のとき出された息が,口の中であまり舌や歯などでじゃまされない音)と子音(発声の息が舌や歯などによってじゃまされる音)の区別がある.また,母音と子音の両方の性質を持つ中間的な音として,「半母音」というものを考えることがある.言語における音は,通常の音声と区別されるので,正確には「音韻」と呼ばれる.

スワヒリ語のアルファベットとその読み方,そしてそれぞれの文字のあらわす音は次のようになる.発音の欄には文字のあらわす音を発音記号(国際音標文字)で示す.発音を示す文字は普通 / / でかこんであらわす.また,参考のために日本語(一部英語)の近い音をあげる.

スワヒリ語のアルファベットとその発音
つづり読み方発音単 語 例日本語(英語)の類似音
A,aaa 「アー」/a/ama「または」日本語の「あ」と同じ
B,bbe 「ベ」/b/baba「父」「ば」行の子音
Ch, chche 「チェ」/c/chai「茶」「ち」「ちゃ」の子音
D,dde 「デ」/d/duka「店」「だ」「ど」の子音
Dh, dhdha 「ダ」「ザ」/dh/dhuru「じゃまする」舌先を歯で軽くかんで発音する音.英語の the「その」の /th/ の音.一部 /d/ 音と混同されている
E,eee 「エー」/e/elfu「11」「え」と同じ
F,ffe 「フェ」/f/faa「役立つ」下唇を歯で軽くかんで発音する.英語の fee「費用」の /f/ の音
G,gge 「ゲ」/g/gumu「重い」「が」行の子音
Gh, ghgho 「ゴ」/gh/ghali「高い」「は」の子音を強い息とともに声を出して発音した音.ただし,/g/ で代用してもよい
H,hhe 「ヘ」 /h/hebu「ちょっと」「は」の子音
I,iii 「イー」/i/imba「歌う」「い」と同じ
J,jje 「ジェ」/dj/jua「太陽」「じ」「じゃ」の子音
K,kke 「ケ」 /k/kuku「にわとり」「か」行の子音
L,lle 「レ」 /l/la「いいえ」「ら」行の子音
M,mme 「メ」 /m/mama「母」「ま」行の子音
N,nne 「ネ」 /n/na「そして」「な」行の子音
Ng', ng'ng'o 「ンゴ」/ng'/ng'ombe「牛」鼻音の「が」行の子音.英語の king「王」の /ng/ の音
Ny, nynye 「ニェ」/ny/nyayo「足跡」「にゃ」「にゅ」の子音
O,ooo 「オー」/o/ona「見る」「お」に同じ
P,ppe 「ペ」/p/paa「屋根」「ぱ」行の子音
R,rre 「レ」 /r/rais「大統領」舌先をふるわす「ら」行の子音./l/ 音との違いはあまり明確ではない
S,sse 「セ」/s/saa「時」「さ」「す」の子音
Sh, shshe 「シェ」/s/shika「つかむ」「し」「しゃ」の子音
T,tte 「テ」 /t/taa「明り」「た」「と」の子音
Th, ththe 「テ」 「セ」/th/ themanini「80」舌先を歯で軽くかんで発音する音.英語の think「考える」の /th/ の音.一部 /t/ と混同されている
U,uuu 「ウー」/u/ua「花」唇を丸めた「う」に同じ.英語の put「置く」の /u/ の音
V,vve 「ヴェ」/v/vaa「着る」下唇を歯で軽くかんで発音する音.英語の very「とても」の /v/ の音
W,wwe 「ウェ」/w/weka「置く」唇を丸めた「わ」の子音.英語の we「私たち」の /w/ の音
Y,yye 「イェ」/j/yai「卵」「や」「ゆ」の子音
Z,zze 「ゼ」/z/zaa「生む」zaa「生む」

この他にも Kh, kh というつづりが見られるときがある.これは日本語の「は」の子音を強い息を出して発音した音で,発音記号では /x/ で表される.専門的には無声摩擦喉音(のどの奥で息を強く出す音で声を出さない音)という.sabalkheri「おはよう」などの一部の語(外来語)で使われる.ただし,今日ではほとんど /h/ の音で代用されていて,つづりもそれにあわせて h に書きかえられることが多い.

スワヒリ語の発音の中で,日本人にとってむずかしいのは,/dh/, /f/, /gh/, /ng'/, /ny/, /r/, /th/, /v/ などだろう.このうち,/f/, /dh/, /th/, /v/ については,英語で該当する音が正しく発音できればそのままでかまわない./dh/, /th/ は /d/, /t/ とやや混同されることもあるが,できるだけ区別することが望ましい./f/, /v/ については,他とははっきり区別される音なので,注意しなければならない./gh/ は /h/(/kh/)の有声音(声を出して発音する音)に相当する音だが,むずかしければ /g/ で代用してかまわない.東アフリカの人でも /gh/ を /g/ と発音する人がかなりいる./r/ も同様に日本語の「ら」行の音をそのまま用いてかまわない.専門的には,/r/ は舌せん歯けいふるえ音(舌の先を歯ぐきに軽くあてて細かくふるわせる音,いわゆる巻き舌の「ら」行音)で,/l/ は前舌歯けい流音(舌の前部を歯ぐきにあてて声を出す音,日本語の「ら」行にほぼ同じ)である.しかし,実際にはあまり区別されていない.

/ng'/ と /ny/ については,/n/ との区別をはっきりさせる必要がある.これらの音は日本語の中にもあらわれるものだが,明確に区別していないのであいまいになるおそれがある./ng'/ 音は,日本語では「が」行に続くときの「ん」にみられる音で,「おんがく」と言うときの「ん」がこれにあたる.またこのときの「が」(鼻音の「が」)の子音も,標準日本語では /ng'/ と同じ音になる.この音を発音すると,舌の奥の方がのどに近い上あごのやわらかい部分に接しているのがわかる.この上あごの位置を軟口がいというので,この位置で発音する鼻音(鼻から息を出して発音する音)/ng'/ を「軟口がい鼻音」と呼んでいる./ny/ については,日本語で「にゃ」「にゅ」「にょ」というときの子音に相当し,スワヒリ語ではこれを /n/ + /y/ ではなくて単一の音とみなす.日本語でも,「じ」「ち」に続くときの「ん」の音は /ny/ と同じ単一の音になる.たとえば,「かんじ」と言うときの「ん」は,普通の「な」行の子音,あるいは「かんだ」と言うときの「ん」とは違って,舌の中央部が奥の方へもり上がって発音される.このとき舌が上あごに接する位置を硬口がいと呼び,この鼻音 /ny/ を「硬口がい鼻音」という.「かんだ」と言うときの「ん」の舌の位置は歯けい(歯ぐき)部分にあたるので,/n/ を「歯けい鼻音」という.スワヒリ語ではこのような /ng'/ と /ny/ の音を /n/ 音とかなり厳密に区別する.

スワヒリ語の発音はほとんど文字どおり読めばよく,特別な発音記号は必要ないとされる.ここでも特別な場合を除いては文字表記をそのまま発音もあらわすものとして使う.特に1文字で1つの音をあらわす必要があるときには,/c/ (=/ch/), /*/ (=/dh/), /*/ (=/gh/), /x/ (=/kh/), /*/ (=/ng'/), /*/ (=/ny/), /*/ (=/sh/), /*/ (=/th/) のように発音記号を用いてあらわすことにする.[注/原文では,国際音標文字が入っていたが,HTMLで表現できないために * で表している.]

ただし,次のような場合にはつづりと発音が一致しないので注意が必要である.ngamia「ラクダ」,benki「銀行」など ng, nk のつづりでは,n は /*/ (=/ng'/) の音をあらわす.nchi「国」,vunja「こわす」など nch, nj のつづりでは,n は /*/ (=/ny/) の音をあらわす.このような n の音の変化は自然な口の動きにそっているものなので,特に意識して発音しわけなくても,普通にそのような発音になる.日本語の「ん」をそのまま考えればよい.

1.2.音節

「音節」とは,母音を中心とする音のかたまりの単位をいう.言語は通常音節の単位ごとにひとまとまりとして発音され,また聞きとるときも音節単位でそれぞれの音の違いなどを判別している.そのため言語の発音や聞きとりの練習でも,個々の母音や子音だけををとりあげるのではなく,音節単位で練習しなければ意味がない.スワヒリ語が日本人にとって比較的聞きとりやすい言語であるといわれるのは,両言語の音節構造が近いことと関係がある.つまり,両方とも音節が原則的に母音で終わる構造を持っているからで,このような音節を開音節という.これとは逆に子音で終わる音節を閉音節という.スワヒリ語の音節構造は,/子音+母音/ または /母音/ だけ,という単純な構造のものが多く,音節の切れ目が私たちにとってはわかりやすい.ただし一部の単語では,母音が脱落して子音が連続したり,連続した母音の一方が半母音化して,音節の切れ目がわかりずらくなっているものもある.標準的なスワヒリ語ではこのような発音の変化をそのままつづりにも書きあらわすので,この種の語では音節の区切り方がかならずしも1とおりではない.

音節の数を数える場合,母音の数を基本にしてそれをそのまま音節数と一致させようとする考え方がある.これは母音を中核とした音連続(子音+半母音+母音+半母音+子音)をひとまとまりとして発音する言語を手本にして,音節を定義しようとするところから起こっている.また一方では,子音と母音の両方の数を基本として音節数を数える考え方もある.日本語の音節の数え方はどちらかというと後者に属し,音節の単位を子音群と母音群の連続と考えるよりは,かならず子音と母音が一つずつ対になっているものとして,どちらか多い方を音節数とするのである.このような音節単位を前者の音節単位と区別して「拍」と呼ぶことがある.

スワヒリ語の音節についても両方の考え方が可能であって,単純に母音の数だけを音節数と認めるのには無理がある.たとえば,現在の標準的な書記法にしたがえば,mbali「遠い」,rais「大統領」,kwamba「〜ということ」などはみんな2音節の語ということになってしまうが,実際にはそれとは違った音節の区切り方を示す例がいくつも存在する.正書法(言語の正しい書き表し方)をよく知らない人が mbali, rais, kwamba などをそれぞれ *mubali, raisi, *kuamba とつづってしまうことがあるのはその1つの例で,スワヒリ語話者の音節感覚と表記法とのずれを表したものといえる.(/*/ で示した語のつづりは正書法として認められていない.)特に rais と raisi の両方が標準的な書き方として認められていることは,母音だけによる音節の句切り方では処理できない音節単位が存在することを証明している.これらは実際には同じ発音を書き表しているにもかかわらず,それを受けとめる人によって音節とするかどうかがかわってくるからである.

そこで,一般的な音節の単位とは別に「拍」という別の音節単位も導入して,母音だけを考える従来の音節処理の不備を補うことにする.ただし,ここでことわっておくが,スワヒリ語の場合には,多くの単語で一般的な音節単位の数と拍の数は一致するものである.それは,開音節という単純な音節だけからなる語が多いからである.歴史的にみても,スワヒリ語の単語の中で意味をになっている各部分(形態素)はもともと /子音+母音/ または /母音/ のみという音の構造を持っていたものだったと考えられている.そして,そのような単位が連続して語を形成し,長い間の発音の変化の中で現在のような形ができあがったのである.

先ほどの例も含めて,いくつかの単語の音節数と拍数を示すと次のようになる.音節と拍の切れ目を[・]で示す.

単語の音節数と拍数
単 語 例音 節 単 位拍 単 位
baba   「父」ba・ba  (2音節)ba・ba  (2拍)
faa    「役だつ」fa・a   (2音節)fa・a   (2拍)
dhuru   「じゃまする」dhu・ru  (2音節)dhu・ru  (2拍)
nchi   「国」nchi (1音節)n・chi  (2拍)
benki   「銀行」be・nki  (2音節)be・n・ki  (3拍)
mbali   「遠い」mba・li  (2音節)m・ba・li  (3拍)
rais   「大統領」ra・is  (2音節)ra・i・s  (3拍)
kwamba  「〜ということ」kwa・mba (2音節)kw・a・m・ba (4拍)

これらの例をみてもわかるように,拍単位の数は音節単位の数と比べて,かならず等しいかまたは多くなる.極端な例としては kwamba「〜ということ」のように,音節単位では kwa・mba の2音節だが,拍単位では kw・a・m・ba の4拍となるものもある.

日本人がスワヒリ語を発音するときは,音節単位ではなくて拍単位で区切って発音,聞きとり練習を行うとよい.かなでは表記できない音があるのが難点だが,表記できるものについてはだいたい日本語のかなを読むときの感覚で普通に発音すると実際のスワヒリ語の発音に近くなる.したがって,mbali, raisi, kwamba などはそれぞれ「ンバリ」「ライス」「クァンバ」とそのまま読んでもほとんど通用する.注意することは,ややあいまいな母音(あるいは無声の母音)を日本語では u「ウ」ととらえるのに対して,スワヒリ語では i としてとらえる(raisi のつづりの最後の i)ことぐらいである.それぞれの拍はだいたい同じ間隔で,一定のリズムを刻むように発音する.英語などの音節の間隔とはかなり違うので,英語の発音になれている人は逆に注意が必要である.

ただしスワヒリ語の正書法では単語を区切って書く場合,kwa-mba のように音節単位で区切らなければならない.

1.3.強勢とイントネーション

スワヒリ語のアクセントは強勢(強弱のアクセント)である.強勢とは,ある音節(拍)の部分を他の音節よりも強く発音するもので,これは単語と単語の切れ目を知るためにも重要なことである.スワヒリ語の強勢はいつも単語の後ろから2番目の音節の位置におかれる.ただしアラビア語系の3音節の単語(外来語)では,一番最初の音節に強勢がおかれるものがある.そのような例としては次のものがある.

(例) gháfula「突然」,lázima「義務」(ただし lazíma も可)

 また,1音節の語で2拍の単語は1拍目の子音が音節化して,そこに強勢がおかれる.

(例) m'tu「人」, m'bu「蚊」, n'chi「国」, n'je 「外」

このような例では2音節とする見方もあるが,ここでは音節の定義を厳密にするため1音節(2拍)の語と考える.合成語(2つの語をつなげてつくられた語)や一部の語でも,拍単位で後ろから2番目の拍(音節化した子音)に強勢がおかれるものがある.

(例) mwanam'ke「女」, am'ka「起きる」(ただし ámka も可), mwanan'chi「国民」

イントネーション(声の上がり下がり)には決まった法則がない.文はほとんど平たんに発音される.ただし1つの単語だけをとりあげて発音すると,強勢のおかれる音節(拍)がやや高めの調子になる.また強調したい部分(語)が強く,高めの調子で発音される.スワヒリ語の肯定文(普通に事実を述べる文)と疑問文(ものをたずねる文)の違いはイントネーションだけで区別され,肯定文では文尾の調子を下げるのに対して,疑問文では文尾の調子を上げる.

[肯定文] Wanacheza tenisi.(さげ調子) 「彼女たちはテニスをしている.」
[疑問文] Wanacheza tenisi?(あげ調子) 「彼女たちはテニスをしてるか?」

文ではなくて,1つの単語だけでものをたずねる場合も同じである.書かれた文(語)が疑問文であることを示すときは,文尾に疑問符[?]をつける. また,強勢のおかれる音節の母音はやや長めに発音される.しかし,強勢がおかれるかおかれないかによって母音や子音の音価(発音された音の音色)そのものが変化することはない.