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第3章 名詞第V類,第W類,第X類,人称接辞

3.1.名詞第V類 動物群

第V類はおもに「動物」「事物」などを意味する多くの語群からなり,単数,複数ともに ny(外見上は n )という接辞を持つ.この代表的な例は nyoka「ヘビ」(単数,複数とも同形)である.しかし,この第V類に属する名詞は実にさまざまな意味を持つものが集まっているため,この類の意味を特定することはむずかしい.また,接辞の ny は語によっては音韻変化により脱落する.そのため,外見上は接辞がついているのかどうかわからないような語の多くがこの類に含まれている.特に新規の外来語がほとんど,分類上この類に属するものとみなされるので,他の類と比べて名詞の種類も数も圧倒的に多い.

接辞 ny は後ろに続く語幹の音韻によって著しく影響を受ける.おもなものをまとめると次のようになる.
(1)後ろに続く音が母音(半母音),または子音 j のとき,接辞 ny はそのまま硬口蓋鼻音 ny(/#/)としてあらわれる.ただし,子音 j が後続するときは,表記上は ny は n と書かれる.

nyota「星」,nyumba「部屋」,nywele「毛髪」,njiwa「鳩」,njia「道」
(2)後ろに続く音が子音 d,z のとき,接辞 ny は歯けい鼻音 n となる.
ndege「鳥」,ndugu「きょうだい」,ndoto「夢」,ndovu「ゾウ」,ndizi「バナナ」,nzi「ノミ,ナンキン虫」,nzige「バッタ」
(3)後ろに続く音が子音 g のとき,接辞は軟口蓋鼻音 ng'(/?/)となる.ただし,子音 g が後続するので表記上は ng' は n と書かれる.
ngamia「ラクダ」,ngano「小麦」,nguruwe「ブタ」,nguo「服」
(4)後ろに続く音が子音 b,v のとき,接辞は唇鼻音 m となる.
mbwa「犬」,mbegu「種」,mbu「蚊」,mboga「野菜」,mvua「雨」
(5)後ろに続く音が鼻子音 m,n,ny,ng' のとき,接辞はその鼻子音に吸収される.
ng'ombe「牛」,mamba「ワニ」,nyangumi「クジラ」,nyama「肉」,mama「母」
(6)上記以外の音が後ろに続く場合は,接辞が脱落する.
kuku「にわとり」,kobe「カメ」,kazi「仕事」,kaka「兄」,tembo「ゾウ」,chui「ヒョウ」,chura「カエル」,chumvi「塩」,simba「ライオン」,twiga「キリン」,tumbili「さる」,siku「日」,pamba「綿」,pwani「海岸」,fimbo「つえ」
(7)ただし1音節の語については接辞を残す.このとき残る接辞の音価は,後ろに続く音によって決定され,子音 t,s の前では歯けい鼻音 n,子音 k の前では軟口蓋鼻音 ng'(表記上は n ),子音 ch の前では硬口蓋鼻音 ny(表記上は n ),子音 p の前では唇音鼻音 m となる.実際の例としては,次のような語がある.
nchi「国」, nta「ロウ」
(8)その他の一般名詞
以上の原則に従わずに,接辞が特定できないものも多い.外来語の多くはこの中に分類される.
dada「姉」,shangazi「おばさん」,jamaa「家族」,jamii「仲間集団」,dawa「薬」,kalamu「えんぴつ,ペン」,suruali「ズボン」,inzi「ハエ」,chai「茶,紅茶」,kahawa「コーヒー」,nazi「ココナツ」,zawadi「贈り物」,simu「電話,電報」,anwani「住所」,nafasi「余地,機会」,akili「知恵」,alama「印,署名」,anga「空,宇宙」,ardhi「大地,地球」,sayari「惑星」,dunia「世界」,bara「大陸,大地」,bahari「海」,mashua「船」,barafu「氷」,theluji「雪」,nafaka「穀物」,dhahabu「金」,fedha「銀」,shaba「銅」,duara「円,丸」,pembetatu「三角形」,lazima「義務」,mali「財産」,kawaida「普通」,tingatinga「耕うん機」,pikipiki「オートバイ」,afya「健康」,lugha「言語」,vokali「母音」,meza「テーブル」,shule「学校」,oksijeni「酸素」,redio「ラジオ」,televisheni「テレビ」,kamera「カメラ」,piano「ピアノ」,tarumbeta「トランペット」,baisikeli,baiskeli「自転車」,kompyuta「コンピュータ」,afisi,ofisi「事務所」,kampuni「会社」,stesheni「駅」,sekondari「中等(教育)」,
抽象的な事物や時,単位などに関するものでは,いつも単数形として扱われる.曜日,月の名前は大文字で書き始める.
asubuhi「朝」,jioni「夕方」,Alhamisi「木曜日」,Januari「1月」,Ramadhani「イスラム暦9月,断食月」,juu「上」,mbele「前」,moja「1」,mia「百」,asilimia「パーセント」,meta「メートル」,gramu「グラム」,kilo「キロ」,senti「センチ,セント(金額の単位)」,digrii「度,℃」,shilingi「シリング(金額の単位)」,dola「(米国)ドル」,yen「(日本)円」,njaa「空腹」,kiu「のどのかわき」,shaka「疑い,疑惑」,haraka「急ぎ,緊急」,mbio「急ぎ,つっぱしること」,soka「サッカー」,tenisi「テニス」
また,名詞によっては他の類とまぎらわしいものがある.たとえば vita「戦争」はもともと第V類に属する名詞だったのが,形態 vi- が第W類複数形に似ているために混同されてしまった例である.現在では用法についても,第V類,または第W類複数形のどちらを使ってもよいことになっている.

また一部には,複数形に第X類の接辞 ma をとるものがある.たとえば bwana「主人」では,複数形として bwana の他に mabwana(<ma+bwana)という形も使われる.このような語では,複数形が第V類と第X類の両方の形を持つことが多い.しかし形態上では第X類の形をとっても,用法的には第V類の用法を守らなければならない.

rafiki/marafiki「友だち」,gari/magari「車,自動車」,baba/baba,mababa「父」,fundi/fundi,mafundi「工員」,saa/saa,masaa「時計,時間」,shida/shida,mashida「障害」,basi/basi,mabasi「バス」
(9)固有のものを表す名詞
固有のものを表す名詞は単数形のみと考えられ,大文字で書き始められる.国の名前や地域,都市の名前は,形態にかかわらずこの類に属するものと見なす.国名などはスワヒリ語特有の形を持つものもあるが,その他の地名は原則的には現地の発音やつづり(または英語での発音やつづり)をそのまま用いる.通常は単数扱いである.
Jupiteri「木星」,Saturni「土星」,Mizani「てんびん座」,Nge「さそり座」,Afrika「アフリカ」,Tanzania「タンザニア」,Nairobi「ナイロビ」,Kampala「カンパラ」,Beijing「北京」,Tokyo「東京」,London「ロンドン」
(10)その他の特殊な語,擬声語など
新しくとり入れられた外来語,所属のわからない新造語(新しくつくられた語),擬声・擬態語(動物の鳴き声,物音,物体の感じを音声で表現したものなど)などは,ほとんどこの類に属するものとみなす.また,新規の外来語(特に英語)はもとのつづりどおりに書き,発音する.
muu muu「モウモウ(牛の鳴き声)」,tang' tang'「ドンドン(たたく音)」,chapa chapa「ざぶざぶ,びしょびしょ(水の音)」,ksks「相手の注意をひく音」
最後の例 ksks は表記上にあらわれることはほとんどない.母音を持たずに,子音の連続だけで発音される特殊な音である.

3.2.名詞第W類 小もの群

第W類はおもに「小さいもの」などを意味する語群からなり,単数は ki,複数は vi という接辞を持つ.この類の名詞の代表例は kitu「もの(単数)」/vitu「もの(複数)」である.この接辞は人や物の意味をわい小化する働きをする.
kitabu/vitabu「本」,kisu/visu「ナイフ」,kijiko/vijiko「スプーン」,kikapu/vikapu「かご」,kitanda/vitanda「ベッド」,kiti/viti「イス」,kichwa/vichwa「頭」,kidole/vidole「指」,kijana/vijana「若者」,kipofu/vipofu「盲人」,kilema/vilema「身障者」,kisiwa/visiwa「島」,kiboko/viboko「カバ」,kifaru/vifaru「サイ」,kipepeo/vipepeo「チョウチョウ」,kipindi/vipindi「いっとき,一時期」,kisa/visa「話,物語」,kifo/vifo「死」,kimbunga/vimbunga「嵐,台風」,kilimo/vilimo(通常は単数)「農業」kitenzi/vitenzi「動詞」,kivumishi/vivumishi「形容詞」
接辞の後ろに母音が続く場合は,接辞が音変化を起こして,単数接辞 ki は ch に,複数接辞 vi は vy に変化する.
chakula/vyakula「食物」,chama/vyama「団体,委員会」,cheti/vyeti「資格,免許」,cheo/vyeo「サイズ」,chumba/vyumba「部屋」,choo/vyoo「トイレ」,chombo/vyombo「容器」,chungu/vyungu「なべ」,chupa/vyupa「ビン」,chuma/vyuma「鉄,金属」,chuo/vyuo「(専門的な)学校」
ただし,例外もある.
kiazi/viazi「じゃがいも」,kiongozi/viongozi「指導者」, kiangazi/viangazi「乾期」

3.3.名詞第X類 大もの群

第X類はおもに「大きいもの」「身体の一部」などを意味する語群からなり,単数は ji,複数は ma という接辞をもつ.しかし単数の接辞 ji は一部の語を除いて脱落しており,形態的には第V類と区別がつきにくい.また複数の接辞 ma は,maji- となるものもある.語幹が母音で始まるものは,単数接辞 ji は j- だけになる.また複数形では, *mai, *mae が me となるのが通常の音韻変化である.

この類に属する名詞の代表例としては jiwe「石(単数)」/mawe「石(複数)」があげられる.この類の接辞は人やものの意味を肥大化する働きをもつ.

jicho/macho「目」,jino/meno「歯」,goti/magoti「ひざ」,bega/mabega「肩」,sikio/masikio「耳」,tako/matako「しり」,sanduku/masanduku「箱」,jengo/majengo「建物」,duka/maduka「店」,soko/masoko「市場,スーパーマーケット」,ua/maua「花」,jani/majani「草,葉」,yai/mayai「たまご」,embe/maembe「マンゴ」,chungwa/machungwa「オレンジ(実)」,nanasi/mananasi「パイナップル」,tunda/matunda「くだもの」,jua/majua「太陽,恒星」,jibu/majibu「答え」,tokeo/matokeo「結果」,lengo/malengo「目的」,swali/maswali「質問」,somo/masomo「勉強,レッスン」,hitaji/mahitaji「必要性」,tatizo/matatizo「問題,クイズ」,joto/majoto(通常は単数形)「熱」,
第X類の単数形は,形態上第V類と区別がつきにくいものが多く,しばしば混同されている.

この類の名詞の中には,おもに複数形だけを使うものがある.

haragwe/maharagwe(通常複数形)「豆」,tumaini/matumaini(通常複数形)「希望」,funzo/mafunzo(通常複数形)「教育,教授」,endeleo/maendeleo(通常複数形)「進歩」
特に物質(液体),抽象的なもの(行為)などを表す名詞では,常にこの類の複数の形だけが使われる.
maji「水,液」,mafuta「油,石油」,maziwa「牛乳」,mawasiliano「情報伝達,コミュニケーション」,maarifa「知識」,marehemu「哀悼」

3.4.名詞第W類と第X類の接辞の用法

名詞第W類と第X類の接辞には,通常の名詞の意味をわい小化したり肥大化する役割を持つものがある.これはもとになっている名詞に対して,相対的に大きくしたり小さくしたりするもので,古くはこのような働きがこれらの類の本来の意味だったものと考えられる.今でもこの働きはかなり有効で,任意のある名詞に対して第W類,または第X類の接辞をつけ,大きさの変化を表すことができる.

わい小化する意味をもたせるときは,第W類の接辞 ki,vi を語幹につける.このとき名詞によっては,接辞を kiji-, viji- とするものもある.肥大化する意味をもたせるときは,第X類の接辞 ji,ma を語幹につける.このときも,複数接辞 ma が maji- になるものがある.
第W類(わい小化)第X類(肥大化)
(T)mtu/watu「人」jitu/majitu「巨人」
(T)mdudu/wadudu「虫」kidudu/vidudu「微生物」dudu/madudu「大型の昆虫」
(U)mwiko/miiko「しゃくし」kijiko/vijiko「スプーン」
(U)mji/miji「町,市」kijiji/vijiji「村」jiji/majiji「大都市」
(V)ndege/ndege「鳥」kidege/videge「小鳥」dege/madege「大きい鳥」
(V)nyoka/nyoka「ヘビ」joka/majoka「大蛇」
(W)kitabu/vitabu「本」kijitabu/vijitabu「小冊子,パンフレット」
(W)kikapu/vikapu「かご」kapu/makapu「大きいかご」
(X)sanduku/masanduku「箱」kijisanduku/vijisanduku「小箱」

3.5.人称接辞

人称接辞とは,人称代名詞(mimi「私」など)に代わって主語や目的語(動作の目的となるもの)などを意味する接辞をいう.主として動詞などに接着する.主語の代わりをする接辞を主辞といい,動詞に接着する場合はその動作の行為を行うものを表す.主辞は人称代名詞と同様,1人称,2人称,3人称それぞれに単数と複数の区別がある.
単数主辞 複数主辞
1人称 ni 「私は」 tu 「私たちは」
2人称 u 「あなたは」 m 「あなたたちは」
3人称 a 「彼(女)は」 wa 「彼(女)たちは」

3.6.接続詞 na の用法

語と語,あるいは文と文をつなげる働きをするものを接続詞という.接続詞 na は「そして,〜と〜」のような意味を持つが,これは「近くにいる,ある」というもとの意味が転じて,ものを並列したり,文や語をつなげる働きをするようになったものである. wewe na mimi「あなたと私」, wanawake na wanaume「女性と男性」,mama na baba「母と父」, Afrika na Asia「アフリカとアジア」,Sisi ni wakulima. Na ninyi? 「私たちは農民です.それで,あなたたちは?」 na は主辞と接着して一語(主辞+na)になる.この場合の na は「〜を持っている,近くに〜がある,〜がいる」など,動詞的な意味をもつ.各人称の主辞と接着した形は次のようになる.
単数 複数
1人称 nina 「私は持ってる」 tuna 「私たちは持ってる」
2人称 una 「あなたは持ってる」 mna 「あなたたちは持ってる」
3人称 ana 「彼(女)は持ってる」 wana 「彼(女)たちは持ってる」
この語の後ろには「所有の対象,近くに存在する対象」となる名詞(または名詞相当語句)をおくことができる.後ろに続く語によって「〜を持っている,〜がある,〜がいる」などさまざまな意味に訳される.
Nina vitabu. 「私は本を持ってる.」
Tuna nyumba. 「私たちには家がある.」
Una ndugu? 「あなたにはきょうだいがいる?」
Mna kazi. 「あなたたちには仕事がある.」
Ana kiu? 「彼はのどがかわいていますか(かわきがある)?」
Wana ng'ombe. 「彼たちは牛を飼ってる.」

3.7.否定の人称接辞と接続詞の na

人称接辞の主辞は「〜だ,〜である」という肯定の意味を持つものの他に,「〜じゃない」という否定の意味を持つ形がある.否定形の主辞は,主辞の前に否定を表す接辞 ha-をつけることによって作られる.この接辞 ha「〜じゃない」を「否定辞」という.ただし,否定辞のついた各人称接辞の実際の形は,音韻変化を起こして次のようになる.
否定辞+単数主辞 否定辞+複数主辞
1人称 si 「私は〜じゃない」 hatu 「私たちは〜じゃない」
2人称 hu 「あなたは〜じゃない」 ham 「あなたたちは〜じゃない」
3人称 ha 「彼(女)は〜じゃない」 hawa 「彼(女)たちは〜じゃない」
ここには,*ha+ni > si(1人称単数),*ha+u > hu(2人称単数),*ha+a > ha(3人称単数)のような変化が考えられる.ただし,1人称単数の *ha+ni > si の変化が,規則的な音韻変化によるものかどうかは疑わしい.

この否定形は,やはり接続詞 na と接着して一語をつくる.この場合は「〜を持っていない,近くに〜がいない,ない」などの意味をもつ.
単数 複数
1人称 sina 「私は持ってない」 hatuna「私たちは持ってない」
2人称 huna 「あなたは持ってない」 hamna 「あなたたちは持ってない」
3人称 hana 「彼(女)は持ってない」 hawana「彼(女)たちは持ってない」
この語の後ろにも「所有,存在の対象」を表す名詞(または名詞相当語句)がおかれる.後ろに続く語によって「〜を持ってない,〜がない,〜がいない」などさまざまな意味に訳される.

Sina vitabu. 「私は本を持ってない.」
Hatuna nyumba. 「私たちには家がない.」
Huna ndugu? 「あなたにはきょうだいがいないの?」
Hamna kazi. 「あなたたちには仕事がない.」
Hana kiu? 「彼はのどがかわいていないのですか(かわきがない)?」
Hawana ng'ombe. 「彼たちは牛を飼ってない.」